法人になると「消費税が2年間免税になる」は本当?
「法人成りをすると、消費税は2年間免税になる。」
このような話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに、新設法人は一定の要件を満たせば、設立後2事業年度について消費税の納税義務が免除される場合があります。そのため、個人事業主が消費税の納税義務が生じるタイミングで法人成りを検討するケースも少なくありません。
しかし、「法人成りをすれば必ず2年間免税になる」というわけではありません。資本金の額や特定期間の判定、インボイス登録の有無などによっては、設立初年度または2期目から課税事業者となるケースもあります。
つまり、法人成りによる消費税の取り扱いは、一律ではなく会社の設立方法や事業内容によって大きく変わります。
そこで今回は、「法人成りをすると消費税が2年間免税になる」と言われる理由と、設立前に確認しておきたい消費税の注意点について、千葉県船橋市の税理士がわかりやすく解説します。
1.新設法人は原則として消費税の免税事業者
法人成りをすると、設立した法人は原則として消費税の「免税事業者」となります。これは、法人としての基準期間(前々事業年度)がまだ存在しないためです。
消費税の納税義務の有無は、個人と法人とでまったく別の事業者として判定されます。つまり、法人成りする前の個人事業主としての売上高がいくらであったかに関わらず、設立した法人は法人単位で新たに判定が行われるのです。たとえ法人成りに係る個人事業者の前々年の課税売上高が1,000万円を超えていたとしても、新設法人自体には基準期間における課税売上高がないため、原則として設立当初の納税義務は生じません。
(参考)国税庁:個人事業者の法人成りの場合の課税売上高の判定
そのため、個人事業の売上が増え、消費税の納税が始まるタイミングで法人成りを検討される方も多くいらっしゃいます。
ただし、「新設法人だから必ず2年間は免税」というわけではありません。次のような例外に当てはまると、設立初年度から消費税の課税事業者になってしまうケースがあります。
2.資本金1,000万円以上の新設法人は設立初年度から消費税の課税事業者
新設法人であっても、設立時の資本金(または出資金)の額が1,000万円以上である場合は、原則として設立初年度から消費税の課税事業者となります。基準期間がないことによる免税のメリットを受けられないということです。
例えば、資本金1,500万円で会社を設立し、初年度の売上がまだ500万円程度であったとしても、消費税の申告・納税が必要になります。売上規模の小ささに関わらず、資本金の額だけで課税事業者になるかどうかが決まる点に注意が必要です。
資本金は、取引先や金融機関に対する会社の信用力を左右する重要な要素ですが、それと同時に消費税の納税義務にも直結します。「対外的な信用力を重視して資本金を多めに設定する」か、「消費税の免税メリットを優先して999万円以下に抑える」かは、法人成りの前にあらかじめ検討しておきたいポイントです。
3.特定期間の判定により2期目から消費税課税事業者になることも
「新設法人は2年間免税」と言われることがありますが、2期目については特定期間による判定にも注意が必要です。
特定期間(原則として前事業年度開始の日から6か月間)の課税売上高または給与等支払額が1,000万円を超えた場合には、基準期間がなくても2期目から課税事業者となることがあります。
例えば、設立後すぐに事業が軌道に乗り、売上や人件費が大きく増えた場合には、「2年間免税」と思っていても2期目から消費税の申告が必要になるケースがあります。
法人成りを検討する際は、設立初年度だけでなく、2期目の判定も見据えて事業計画を立てることが大切です。
4.インボイス登録をすると新設法人の消費税免税メリットは失われる
法人成りに際して、最近最も多くご相談を受けるのがこのケースです。
新設法人は資本金1,000万円未満であれば原則として免税事業者になりますが、取引先からインボイス(適格請求書)の発行を求められ、設立と同時に適格請求書発行事業者の登録を行う場合は、その時点で課税事業者となります。免税事業者のままではインボイスを発行できないためです。
そのため、「法人成りすれば2年間は消費税が免税になる」と思っていても、実際には設立初年度から消費税の申告・納税が必要になるケースが少なくありません。なお、設立初年度からインボイスを発行したい場合は、事業を開始した課税期間の末日までに登録申請書を提出することで、設立日(課税期間の初日)に遡って登録を受けたものとみなされます。この期限を過ぎると遡って登録を受けることができないため、年末に近いタイミングで設立する場合は特に注意が必要です。
法人成りを検討する際は、インボイス登録の予定も合わせて確認することが重要です。
(参考)国税庁:ケース別登録申請書(フローチャート)
5.特定新規設立法人に該当しないか
資本金1,000万円未満でも、グループ会社の一部として法人を設立する場合など、一定の出資関係・売上規模に該当すると「特定新規設立法人」となり、設立初年度から課税事業者になることがあります。
一般的な小規模事業者の法人成りでは対象となるケースは多くありませんが、一定の場合には個人事業からの法人成りでも該当する可能性があります。
6.個人事業と法人は別の事業者として消費税の納税義務を判定
法人成りをすると、それまでの個人事業と新たに設立した法人は、法律上まったく別の人格(別の事業者)として扱われます。消費税の納税義務についても、個人事業主時代の状況がそのまま法人に引き継がれることはありません(基準期間がリセットされる理由は1.で述べたとおりです)。
この「別の事業者」という考え方は、納税義務の判定だけでなく、各種の届出や特例の扱いにも及びます。たとえば、個人事業主時代に提出していた「消費税課税事業者選択届出書」や「消費税簡易課税制度選択届出書」、インボイスの登録番号は、いずれも法人には自動的に引き継がれません。法人として簡易課税やインボイス発行を継続したい場合は、設立後にあらためて届出・登録の手続きを行う必要があります。
「個人事業主時代にすでに対応していたから大丈夫」と思い込んでしまうと、必要な届出が漏れてしまうことがあるため、法人成りのタイミングで一度、届出関係をすべて棚卸ししておくことをおすすめします。
7.消費税の簡易課税制度を選択するか検討する
資本金1,000万円以上やインボイス登録などにより、法人成り後に課税事業者となる場合は、消費税の計算方法として「本則課税」と「簡易課税」のどちらを選ぶかを検討しておく必要があります。
本則課税は、実際の売上にかかる消費税額から、実際の仕入・経費にかかる消費税額を差し引いて納税額を計算する方法です。一方、簡易課税は、業種ごとに定められた「みなし仕入率」を使って、売上にかかる消費税額から納税額を簡便に計算する方法です。経費の少ないサービス業やコンサルティング業などでは、実際の仕入・経費にかかる消費税額が少ないため、みなし仕入率を使う簡易課税の方が有利になるケースが多くあります。
ただし、簡易課税制度を適用するには「消費税簡易課税制度選択届出書」を、原則として適用を受けたい課税期間の開始前までに提出しておく必要があります。設立後に検討を始めてしまうと、届出の提出が間に合わず、初年度は本則課税のまま申告せざるを得ないこともあります。法人成りを決めた時点で、本則課税・簡易課税のどちらが有利かをあわせて検討し、届出のタイミングを逃さないようにしましょう。
(参考)国税庁:No.6505 簡易課税制度
8.設備投資が多い場合は本則課税が有利なことも
ここまで見てきたように、新設法人は免税事業者になった方が得だと考えがちですが、設立初年度に大きな設備投資や開業費用が発生する場合は、あえて課税事業者を選択し、本則課税で申告した方が有利になることがあります。本則課税では、設備投資の内容によっては、消費税の還付を受けられるケースがあります。免税事業者のままでは、この還付を受けることができません。
特に、次のような業種では、設立時の投資額によって有利・不利が大きく変わります。
・IT事業(サーバー・システム投資)
・製造業(機械・設備投資)
・不動産業(建物・物件の取得)
・EC事業(在庫・物流設備への投資)
このような業種で法人成りを検討する場合は、「免税事業者になる」ことを前提とせず、初年度の投資計画を踏まえたうえで、課税事業者を選択して還付を受ける方が有利かどうかを事前にシミュレーションしておくことが欠かせません。
まとめ
法人成りを検討する際、多くの方は法人税や社会保険のことに目が行きがちですが、消費税の納税義務も経営に大きく影響します。次のポイントは、設立前にあわせて確認しておきましょう。
- 資本金は1,000万円未満に設定するか
- 取引先との関係上、インボイス登録が必要か
- 個人事業と法人は別々に判定されることを理解しているか
- 本則課税と簡易課税のどちらを選ぶか
- 設立初年度に大きな設備投資の予定はあるか
- 以上を踏まえて、法人成りのタイミングは適切か
「法人成りをすれば消費税が有利になる」とは限りません。会社の規模や業種、インボイス登録の有無、設備投資の予定などによって、最適な選択は一社ごとに異なります。法人成りを検討される際は、法人税だけでなく消費税も含めてシミュレーションを行い、ご自身の事業に合った方法を選択することをおすすめします。
・船橋エリアで法人化を検討されている方は、お気軽にご相談ください。
▼個人事業主がいつ法人化すべきについて、概要を記載していますのでこちらもご参照ください。
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